- 「株の利益は特定口座なら、健康保険料には関係ない」が変わる?
- 「金持ちの話でしょ?」と思った人へ
- 例えば、こんな普通の人
- では、Aさんが100万円を取り崩したら?
- もっと利益が大きくなっていたら?
- 「100万円売ったら所得はいくら?」ここを間違えないでほしい
- では、その50万円で保険料はいくら増えるの?
- 国民健康保険の「均等割の軽減」にも注意
- つまり、こういうこと
- では、今回の制度改正で何が変わるのか
- 「配当金だけの話」ではない
- 現時点では「75歳以上」が対象だが、すぐに始まるわけではない
- 「じゃあ、今のうちに全部売ればいい?」
- 一番分かりやすい防衛策はNISA
- 本当に怖いのは「知らないまま老後を迎える」こと
- 今は「恐れる」のではなく「備える」
「株の利益は特定口座なら、健康保険料には関係ない」が変わる?
「株の利益は特定口座(源泉徴収あり)にしておけば、原則として確定申告は不要。確定申告をしなければ、健康保険料にも基本的に影響しない」
これまで資産運用をしてきた人にとって、これは当たり前のように知られていた仕組みだった。
ところが、この前提を大きく揺るがす制度改正が動き始めた。
2026年5月29日に成立し、6月5日に公布された医療保険制度の改正法により、原則75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度について、これまで確定申告をしていなければ保険料や医療費の窓口負担割合の判定に反映されなかった一部の金融所得を、今後は反映させる仕組みが導入されることになった。
「なんだ、75歳以上の話か」
と思うかもしれない。
しかし、ちょっと待ってほしい。
これは単純な「金持ちの配当金に対する増税」の話ではない。
老後のために何十年もかけて投資信託や株を積み立ててきた、ごく普通の人にも関係してくる可能性がある話なのだ。
「金持ちの話でしょ?」と思った人へ
このニュースを見て、こんなふうに思った人も多いのではないだろうか。
「株で何百万円も配当をもらっている金持ちの話でしょ?」
「そんなに金を持っているなら、保険料くらい払えばいいじゃないか」
たしかに、毎年何百万円もの配当金を受け取っている人をイメージすれば、そう思うのも無理はない。
しかし、今回の話は「配当金」だけではない。
株式などを売却して得た利益、いわゆる譲渡益(キャピタルゲイン)も対象となる。
ここが重要なのである。
なぜなら、老後の生活費として投資信託を少しずつ売っている人にも関係してくるからだ。
例えば、こんな普通の人
具体的に考えてみよう。
会社員として30年間働きながら、毎月コツコツ投資信託を買ってきたAさん。
投資した元本は1,500万円。
長年の運用で資産が増え、現在は2,000万円になっている。
つまり、
1,500万円 → 2,000万円
となったわけだ。
増えた500万円がAさんの利益である。
Aさんは別に大富豪ではない。
老後が心配だから、あれを節約し、これを節約して働きながらコツコツ積み立ててきただけだ。
では、Aさんが100万円を取り崩したら?
Aさんは75歳になった。
年金だけでは少し生活費が足りない。
そこで、投資信託を100万円分売って生活費に使うことにした。
さて、この100万円。
全部が「利益」なのだろうか?
もちろん違う。
Aさんの投資信託は、
元本1,500万円
↓
2,000万円
になっている。
つまり、この例を単純化すると、
75%が元本 25%が利益
という状態だ。
したがって、100万円分を売った場合、単純化すれば、
元本部分……75万円
利益部分……25万円
となる。
100万円を使ったからといって、100万円全部が利益になるわけではない。
もっと利益が大きくなっていたら?
では、もっと利益が大きくなっていたらどうだろう。
例えば、
元本1,500万円
↓
3,000万円
まで増えていたとする。
この場合、
元本1,500万円
利益1,500万円
なので、
50%が元本
50%が利益
である。
この状態で100万円分を売れば、単純化すると、
元本部分……50万円
利益部分……50万円
となる。
つまり、同じ「100万円を生活費に使う」という行為でも、投資資産がどれくらい増えているかによって、その中に含まれる利益の額は変わる。
ここは、今回の話を理解するうえで非常に重要なところだ。
「100万円売ったら所得はいくら?」ここを間違えないでほしい
ここは、今回の記事でぜひ覚えておいてほしいところだ。
先ほどの例で、
100万円売却
↓
元本部分50万円
↓
利益部分50万円
だったとする。
「株の利益には約20%の税金がかかるんだから、所得としては税金を引いた約40万円じゃないの?」
と思う人がいるかもしれない。
しかし、違う。
所得として考える基本の金額は、税引き前の50万円の利益である。
まず、
100万円 − 元本50万円 = 利益50万円
と考える。
この50万円が譲渡所得等の基本となる金額になる。
そこから税金が計算される。
現在、上場株式等の譲渡益にかかる税率は、復興特別所得税を含めて20.315%である。
50万円 × 20.315%
= 101,575円
したがって、単純化すれば税引き後に残る金額は、
50万円 − 約10万2,000円
= 約39万8,000円
となる。
しかし、
「所得が約40万円になった」
わけではない。
ここを間違えてはいけない。
考え方としては、
100万円売却
↓
利益50万円
↓ この50万円を基準に税金が計算される
↓
約10万2,000円の税金
↓
税引き後は約39万8,000円
という順番である。
つまり、
「税金を払った後に残った金額が所得」
ではない。
「50万円の利益に対して税金がかかり、その結果として手元に残る金額が約40万円」
なのである。
ここはかなり誤解されやすいポイントだ。
では、その50万円で保険料はいくら増えるの?
ここで、さらに疑問が出てくる。
「じゃあ、金融所得が50万円増えたら、健康保険料も50万円増えるの?」
もちろん、そんなことではない。
50万円というのは「保険料」ではない。
保険料を計算するときの「所得」が50万円増える、という話である。
ここで注意したいのは、今回の法改正が直接対象としているのは、原則75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」だということだ。
そこで、まず仕組みをイメージするために、所得に応じて保険料が決まる「所得割」を考えてみよう。
例えば、所得割率を10%と仮定する。
金融所得が50万円増えたなら、
50万円 × 10%
= 5万円
となる。
つまり、単純計算なら年間約5万円、保険料が増えるイメージになる。
50万円取られるわけではない。
50万円を基準にして、その一部が保険料として上乗せされるのである。
もちろん、これはあくまで仕組みを分かりやすくするための単純計算だ。
実際の保険料は、加入している医療保険制度や自治体、所得、世帯の状況などによって異なり、上限額などもある。
したがって、
「金融所得50万円=必ず保険料が5万円増える」
という意味ではない。
あくまで、
「所得割率を10%と仮定すれば、50万円の所得増なら約5万円」
というイメージである。
国民健康保険の「均等割の軽減」にも注意
ここで、もう一つ注意したいことがある。
国民健康保険には、所得が一定以下の世帯について、均等割などを7割、5割、2割軽減する仕組みがある。
所得の少ない人の保険料を軽くするための制度だ。
例えば、
「今までは所得が少なかったので、均等割が5割軽減されていた」
という人がいたとする。
そこに金融所得が加わり、所得が軽減の基準を超えてしまえば、それまで受けていた軽減に影響する可能性がある。
すると、
「所得割が増える」
だけではなく、
「今まで受けていた保険料の軽減がなくなる」
ということも考えられる。
これは、低所得の人にとっては決して小さな話ではない。
ただし、ここは今回の法改正と混同しないように注意したい。
今回、法律で金融所得を反映する仕組みが導入されることになったのは、まず後期高齢者医療制度である。
現在の国民健康保険について、今回の改正によって直ちに同じ仕組みが始まるという話ではない。
将来的に国民健康保険などにも同様の仕組みが広がれば、所得割だけでなく、所得を基準とする軽減の判定にも影響する可能性がある、という話である。
つまり、こういうこと
ここまでの話を一度まとめてみよう。
100万円の投資信託を売った。
そのうち50万円が利益だった。
↓
金融所得として考える基本は50万円。
↓
税金約10万円を払う。
↓
手元に残る金額は約40万円。
↓
しかし、保険料を考えるときに重要になるのは、税引き後の約40万円ではなく、税引き前の金融所得50万円。
↓
今回の制度改正では、これまで確定申告をしていなければ反映されなかった一部の金融所得を、後期高齢者医療制度の保険料や窓口負担割合の判定に反映する仕組みが導入される。
↓
仮に所得割率10%なら、50万円の所得増で単純計算約5万円。
↓
さらに、将来もし同様の仕組みが国民健康保険などにも広がれば、所得を基準とする軽減にも影響する可能性がある。
だから今回の話は、
「株で50万円儲けたら、税金を10万円払って終わり」
という単純な話ではない。
今後は、
「その50万円の利益が、医療保険の負担にも影響する可能性がある」
というところまで考える必要が出てくるのである。
では、今回の制度改正で何が変わるのか
これまで、特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、株や投資信託の利益について、原則として確定申告をしなくてもよかった。
証券会社が税金を計算して、源泉徴収してくれるからだ。
もちろん、損益通算や譲渡損失の繰越控除などを利用するために確定申告をするケースもある。
問題は、確定申告をしなければ、これまで金融所得が医療保険の保険料や医療費の窓口負担割合などの判定に反映されないケースがあったことだ。
これが今回、変わろうとしている。
2026年に成立した法改正では、後期高齢者医療制度について、これまで確定申告をしていなければ把握できなかった一部の金融所得を、金融機関からの情報を活用して把握し、保険料や医療費の窓口負担割合の判定に反映させる仕組みが導入されることになった。
対象となるのは、源泉徴収によって課税関係が終了している上場株式等の配当や譲渡益などである。
つまり、
「特定口座で源泉徴収されているから、確定申告しなければ医療保険には関係ない」
という、これまでの考え方が、少なくとも後期高齢者医療制度については変わる方向なのである。
「配当金だけの話」ではない
ここも大切だ。
今回の話を、
「株で大きな配当金をもらっている金持ちが狙われる」
と考えてはいけない。
対象には、株式などを売却して得た譲渡益も含まれる。
つまり、
「配当はほとんどないけれど、老後に投資信託を少しずつ売って生活費にする」
という人にも関係してくる可能性がある。
むしろ、これからの高齢者には、
「年金+貯めてきた投資資産の取り崩し」
で生活する人が増えていく可能性がある。
そういう人にとって、今回の制度変更は決して他人事ではない。
現時点では「75歳以上」が対象だが、すぐに始まるわけではない
ここは重要なので、もう一度整理しておこう。
今回、法律として決まったのは、まず後期高齢者医療制度について金融所得を反映する仕組みを導入することだ。
したがって、現時点で75歳未満の人の国民健康保険や会社員の健康保険について、今回の改正によって同じ仕組みが直ちに始まるわけではない。
また、今回の金融所得反映の仕組みも、法律が成立したからといって翌日から始まるわけではない。
この部分の施行は、法律の公布後5年以内とされている。
つまり、今後さらに具体的な制度設計や運用方法が決まっていくことになる。
では、75歳未満の人は完全に関係ないのだろうか。
そこは、まだ分からない。
今後、国民健康保険などに同様の仕組みを広げるかどうかについては、現時点では決まっていない。
厚生労働省も、まず後期高齢者医療制度で導入し、その施行状況を見ながら検討するという考え方を示している。
だから、
「自分はまだ75歳未満だから絶対に関係ない」
と考えるのも少し早い。
将来、制度の対象が広がる可能性については、頭の片隅に置いておいたほうがいいだろう。
「じゃあ、今のうちに全部売ればいい?」
ここまで読むと、
「それなら、制度が始まる前に株を全部売ってしまえばいいんじゃない?」
と思う人もいるかもしれない。
しかし、今すぐ全部売るのはおすすめできない。
売れば当然、その時点で利益が確定し、課税される。
その後、株価が上がれば、売らなかった場合より損をすることもある。
長期投資を途中でやめることにもなる。
何より、まだ制度の細かい部分が決まっていない。
施行までにも時間がある。
だから今の段階では、
「制度が怖いから全部売る」
ではなく、
「自分の場合、制度が適用されたらどうなるのかを知っておく」
ことのほうが大切だ。
一番分かりやすい防衛策はNISA
そこで重要になってくるのがNISAだ。
NISAで得た利益は非課税である。
今回の金融所得の反映についても、NISA口座の金融所得は対象外とされている。
したがって、これから老後資金を作っていく人にとって、NISAを活用する意味はますます大きい。
ただし、
「今持っている株や投資信託を全部売って、NISAで買い直せばいい」
というほど単純ではない。
NISAには年間投資枠や非課税保有限度額がある。
課税口座の商品を、そのままNISA口座へ移すこともできない。
いったん売却し、そのお金でNISAで買い直す必要がある。
その際には、現在の含み益に対する税金なども考えなければならない。
したがって、NISAは非常に有力な制度ではあるが、
「今持っている資産を全部売ってNISAに移せば解決」
という話ではない。
自分の資産状況や今後の投資枠を見ながら考える必要がある。
本当に怖いのは「知らないまま老後を迎える」こと
今回のニュースを見て、
「金持ちの話だから自分には関係ない」
と思った人は、一度、自分の投資資産を確認してみてほしい。
現在1,000万円持っている人。
2,000万円持っている人。
3,000万円持っている人。
その中には、
「大金持ちだから投資している」
のではなく、
「老後が心配だから30年間コツコツ積み立ててきた」
という人もたくさんいるはずだ。
その結果として、ようやくまとまった資産ができたのだ。
そして老後になれば、そのお金を使う。
毎年100万円。
場合によっては200万円。
いや、もっと必要になる事態だってありえる。
必要な分だけ投資信託を売って、生活費にする。
そんな人にとって重要なのは、
「100万円売ったから100万円が所得になる」
わけではないということ。
そして、
「税金を払った後に残った金額が所得になる」
わけでもないということだ。
さらに今回の制度変更によって、
「特定口座(源泉徴収あり)なら、確定申告をしなければ医療保険には影響しない」
という、これまでの考え方が変わろうとしている。
今回の制度変更で本当に注意したいのは、ここなのである。
今は「恐れる」のではなく「備える」
今回の制度改正は、まだ細かい部分まで全部決まったわけではない。
また、今回法律で決まった対象は、まず後期高齢者医療制度である。
国民健康保険などに同じ仕組みが広がるかどうかも、現時点では決まっていない。
だから、今すぐ慌てて株を売る必要はない。
一方で、
「まだ決まっていないから、自分には関係ない」
と放っておくのもおすすめしない。
自分の投資資産はいくらあるのか。
そのうち元本はいくらで、利益はいくらなのか。
老後に年間いくら取り崩す予定なのか。
NISAをどれくらい利用できるのか。
そして、もし将来このような制度が自分にも適用されたら、どの程度の影響がありそうなのか。
このあたりを、おおよそでいいから今のうちに確認してシミュレーションしておけばいい。
制度が始まってから慌てるのではなく、まだ時間があるうちに準備しておく。
それが、今回の制度変更に対する一番現実的な「防衛策」なのではないだろうか。
※この記事は制度の概要を説明することを目的としたもので、税務・社会保険制度についての個別の助言を行うものではありません。当方有資格者ではありません。制度の詳細や施行時期、実際の保険料への影響については、今後の政省令や厚生労働省などの公表資料によって変更・具体化される可能性があります。個別の判断をする場合は、最新の公的情報をご確認ください。



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